写真編集において、色のバランス調整は作品の雰囲気を決定づける重要な工程です

Darktableの color balance モジュールは、色かぶりの修正から映画的なカラーグレーディングまで対応できる多機能ツールです。本記事では、その基本から応用までを詳しく紹介し、Adobe Lightroomとの違いも比較します。


モジュール概要:色調補正とカラーグレーディングの両立

color balance モジュールは、画像の明るさ領域(シャドウ・中間調・ハイライト)ごとに色を調整できます。以下の2つの方式が選べます:

  • lift, gamma, gain:従来の方式で、シャドウとハイライトを個別に制御しやすい。
  • slope, offset, power:映画業界標準のASC CDL方式。シーン参照型の編集に最適。

このモジュールはRGB色空間で処理されますが、Darktableの内部ではLab色空間に位置しているため、Lab → RGB → Labの変換が行われます。

📌 Lightroomとの比較:Lightroomにも「カラーグレーディング」パネルがあり、シャドウ・中間調・ハイライトの色調整が可能ですが、ASC CDL方式には対応していません。


モードの選択肢:色空間と処理方式の違い

color balance モジュールには以下のモードがあります:

  1. lift, gamma, gain (sRGB):sRGB色空間でガンマ補正付き。
  2. lift, gamma, gain (ProPhoto RGB):ProPhoto RGB空間でリニア処理。XYZ輝度に基づいて色のみを調整。
  3. slope, offset, power (ProPhoto RGB):ASC CDL方式。slope=露出補正、offset=黒レベル補正、power=ガンマ補正。

この順番(slope → offset → power)で調整するのが推奨されています。

📌 Lightroomとの比較:Lightroomの「基本補正」パネルで露出や黒レベルを調整できますが、slope/offset/powerのような明確な分離はありません。


色調整インターフェース:RGBLとHSLの違い

  • RGBL:RGB値を直接操作。編集履歴に保存される。
  • HSL:直感的な操作が可能だが、内部ではRGBに変換されるため、編集履歴には保存されない。

HSLモードでは常に明度50%と仮定されるため、RGBとの往復で微細な変化が生じることがあります。

📌 Lightroomとの比較:Lightroomの「HSL/カラー」パネルはHSLベースで操作できますが、RGB直接操作はできません。


飽和度・コントラストの調整

  • input saturation:色調整前に飽和度を抑える。モノクロマスク作成にも活用可能。
  • output saturation:色調整後に全体の飽和度を調整。
  • contrast / contrast fulcrum:輝度のコントラストを強調。fulcrumで影響を受けない輝度値を設定。

📌 Lightroomとの比較:Lightroomでは「自然な彩度」「彩度」「コントラスト」などの基本調整が可能ですが、fulcrumのような詳細設定はありません。


シャドウ・中間調・ハイライトの詳細調整

モードに応じて以下のパラメータが対応します:

  • シャドウ:lift または offset
  • 中間調:gamma または power
  • ハイライト:gain または slope

RGBLモードでは範囲が [-0.5; 0.5]、HSLモードでは [0%; 25%] に制限されていますが、右クリックで数値入力すれば拡張可能です。

📌 Lightroomとの比較:Lightroomのカラーグレーディングパネルでも3領域の色相・彩度調整が可能ですが、lift/gamma/gainやslope/offset/powerのような技術的制御はありません。


プリセットと創造的な活用

  • teal/orange color-grading:映画で人気の色調。2つのモジュールインスタンスとマスクを組み合わせて使用。
  • Kodakフィルム風プリセット:クラシックなフィルムの色調を再現。

📌 Lightroomとの比較:Lightroomにもプリセット機能がありますが、マスクと複数インスタンスの組み合わせは制限があります。


optimize luma:輝度の自動最適化

「optimize luma」機能では、画像全体の輝度を分析し、シャドウ・中間調・ハイライトの因子を調整して、Lab空間で平均50%、最大100%、最小0%の輝度に整えます。これはlevelsモジュールのヒストグラム正規化に似ています。

手動で3つの領域を選択することも可能で、選択後は「optimize luma from patches」と表示されます。ただし、他のモジュール(filmic rgbやtone curve)との併用には注意が必要です。

📌 Lightroomとの比較:Lightroomにはこのような自動輝度最適化機能はなく、手動でトーンカーブを調整する必要があります。


neutralize colors:色かぶりの自動補正

異なる光源が混在する画像では、シャドウとハイライトで色温度が異なり、ホワイトバランスだけでは補正が困難です。「neutralize colors」機能は、各輝度領域の補色を自動計算し、画像全体の平均色を中性グレーに近づけます。

自動最適化が難しい場合は、手動で色サンプルを選び、「neutralize colors from patches」として個別に調整できます。補色ではなく元の色を強調したい場合は、色相に180°を加えることで対応可能です。

📌 Lightroomとの比較:Lightroomではホワイトバランス調整は可能ですが、輝度領域ごとの色補正や補色計算はできません。


まとめ:color balanceはDarktableの中核モジュール

color balance モジュールは、色彩と輝度の両方を細かく制御できる強力なツールです。映画的なルックを目指すなら、LightroomよりもDarktableの方が柔軟性と精度に優れています。特に、マスクや複数インスタンスを活用した高度な編集は、Darktableならではの魅力です。