Darktableの「blurs」モジュールは、シーン参照RGB空間において物理的に正確なぼかしをシミュレートする強力なツールです。本記事では、3種類のぼかしタイプ、詳細なコントロール項目、使用上の注意点、そしてAdobe Lightroomに同様の機能があるかどうかを比較しながら解説します。
ぼかしタイプ(blur types)
blursモジュールには、以下の3種類のぼかしが用意されています:
lens blur(レンズぼかし)
レンズの絞り形状と羽根の枚数をシミュレートし、合成的なボケ(bokeh)効果を作り出します。羽根の数、凹み具合、回転角度などを細かく調整することで、星型や光芒型、完全な円形など多彩なボケ形状を生成できます。
Lightroomの対応機能:
LightroomにはAI駆動の「Lens Blur」機能があり、背景のぼかしやbokehの形状(楕円形、キャットアイ、明るさ強調など)を調整できます。
motion blur(モーションぼかし)
カメラの動きによって生じるぼかしをシミュレートします。動きの方向、曲率、オフセットを設定することで、彗星のような軌跡や曲線的なぼかしを表現できます。
Lightroomの対応機能:
Lightroomにはmotion blurの機能はありませんが、Photoshopの「モーションブラー」フィルターを使えば同様の効果を得ることが可能です。
gaussian blur(ガウスぼかし)
光学的なぼかしではありませんが、ノイズ除去や創造的な効果(ブレンドモードとの併用)に使用できます。高斯関数に基づき、画像のディテールを均一に柔らかくします。
Lightroomの対応機能:
Lightroomにはガウスぼかしの機能はありませんが、Photoshopの「Gaussian Blur」フィルターが一般的に使用されています。
モジュールのコントロール項目(module controls)
一般設定
- blur radius(ぼかし半径):ぼかしの広がり具合を調整します。
- blur type(ぼかしタイプ):上記の3種類から選択します。
lens blur専用設定
- diaphragm blades(絞り羽根の枚数):羽根の数を設定し、bokehの形状に影響を与えます。
- concavity(凹み具合):多角形から星型、光芒型、爆発型まで形状を変化させます。
- linearity(線形度):外形の曲率を調整します。0で円形、1で直線的な形状になります。
- rotation(回転):形状の中心に対して回転させることができます。羽根の枚数が少ない場合に有効です。
motion blur専用設定
- direction(方向):ぼかしの方向を角度で指定します。0°は水平です。
- curvature(曲率):軌跡の曲がり具合を調整します。
- offset(オフセット):曲線に沿って軌跡をずらすことで、彗星型のぼかしを作成できます。
注意点(caveats)
このモジュールは「ナイーブな畳み込み」アルゴリズムを使用しており、処理速度が遅くなる可能性があります。OpenCLによるGPU実装である程度改善されますが、ぼかし半径が大きくなるほど処理時間は二乗で増加します。
また、シーンの奥行きや被写界深度は考慮されないため、偽の被写界深度を作成するには不向きです。Darktableのマスキング機能で前景を分離しても、背景にぼかしが混ざってしまうため完全な分離は困難です。
ヒントとテクニック(tips and tricks)
画像には通常、わずかなノイズが含まれています。画像の一部だけをぼかすと、その部分が不自然に「きれいすぎる」印象を与えることがあります。そのため、ぼかした部分に少しノイズを加えると、他の部分と自然に馴染みます。Darktableの「grain」や「censorize」モジュールを使うと効果的です。
総括:Darktableのblursモジュールは、lens blur、motion blur、gaussian blurの3種類のぼかしを提供し、それぞれに高度なカスタマイズが可能です
lens blurではリアルな絞り形状を再現し、芸術的なbokehを作成できます。motion blurではカメラの動きを模倣し、動感のある軌跡を描けます。gaussian blurはディテールの柔化やノイズ除去に最適です。一方、Lightroomはlens blurに関してはAIによる背景ぼかし機能を備えていますが、motion blurやgaussian blurはPhotoshopなどの外部ツールに頼る必要があります。つまり、ぼかし効果を細かく制御したい写真家にとって、Darktableのblursモジュールは非常に魅力的な選択肢と言えるでしょう。
